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「ノーベル賞級」と評価された九州大学・安達千波矢教授と、「福島大には触らせたくない」と言われた福島大学 ― 偏差値は、何を測っていたのか

コラム

2026年9月17日、ひとつの知らせがありました。

九州大学の安達千波矢主幹教授が、クラリベイト引用栄誉賞に選ばれた、という知らせです。論文がどれだけ世界中の研究者に引用されてきたかをもとに選ばれる賞で、これまでに89人が、のちにノーベル賞を受けています。

2026年は世界で22人。日本からは、ひとり。

各紙の見出しには「ノーベル賞級」の文字が並びました。

スマートフォンなどの画面に使われる、有機EL。その光を超高効率で取り出す仕組みを切りひらいた研究です。今回は、海外の2人の研究者とともに選ばれました。

同じ大学の、もうひとつの夏

その同じ九州大学に、2026年の夏、別のものが届いていました。

大学の入試偏差値をもとに、学生をからかう。そういう動画番組があります。

8月のはじめ、法学部の岡﨑晴輝教授は、その番組を知り、Xに書きました。大学の入学難易度を基準に学生をからかうスタイルには、強い嫌悪感を覚える。多くの受験生や大学生を巻き込むのは、大学人として看過できない、と。

そのあと教授のもとに届いたのが、200通ほどの悲痛なメッセージでした。

教授自身も、見てきました。

九州大学の法学部は、難関と言われます。けれど、その合格を喜べないまま、入学してくる学生がいます。前期で東京大学や京都大学に届かず、後期でここに来た学生たちです。

偏差値という物差しの上では、ここは「第一志望の下」になります。合格したのに、負けたことになる。

その物差しを手放せないまま、気を病み、本当に病気になり、大学に通えなくなっていく学生がいる。教授は、そうした学生を見てきました。相談も受けてきたそうです。

2026年8月15日配信のAERA DIGITALのインタビューで、教授はこう語っています。

「入学偏差値が本人の能力を表すとは思えません」。

同じような偏差値で入ってきた学生でも、答案も、意欲も、発想も、まるで違うのだ、と。その話は、前のコラムに書きました。

その研究者は、どこから来たのか

では、冒頭の安達教授は、どんな道を通ってきたのでしょう。

研究室の略歴には、こう並んでいます。1991年、九州大学の大学院で博士課程を修了。企業の研究所の研究員。1996年、信州大学繊維学部の助手。1999年、アメリカのプリンストン大学の研究員。2001年、千歳科学技術大学の助教授、のちに教授。そして2005年、九州大学へ。

2012年、九州大学から、第三世代と呼ばれる有機ELの発光材料が、Nature誌で発表されます。

同じ賞には、これまでにも日本の研究者が選ばれてきました。

2025年は、空腹に関わるホルモン「グレリン」を見つけた、児島将康氏。発見の場所は、大阪府吹田市の国立循環器病センターでした。その後、久留米大学に移って研究を続け、現在は同大学の名誉教授です。

2024年は、水から水素をつくる光触媒の、堂免一成特別栄誉教授。東京工業大学、東京大学を経て、2017年からは信州大学にも拠点を置いています。

2023年は、眠りを切り替える物質「オレキシン」を見つけた、柳沢正史教授。アメリカで24年にわたって研究室を率い、2010年からは筑波大学にも研究室を開きました。そして2026年9月、アメリカで最も権威ある医学賞とされるラスカー賞も受賞しました。

研究費がどれだけ集まっているか。論文がどれだけ引用されているか。そうした数字も、ひとつの指標とされています。

偏差値が、物差しになると

では、入試の偏差値が物差しになると、何が起きるのか。

九州大学に届いた200通は、そのひとつの答えでした。

同じ夏の終わり、別の大学には、こんな言葉が向けられていました。

教授が看過できないと書いたその番組が、福島大学を訪ねた動画を公開します。学生さんが、自分の大学について聞かれていました。挙げたのは、放射能の研究でした。「福島ならでは」だと。

返ってきたのは、こんな言葉だったそうです。放射能や原子力は、エネルギーに関わるとても重要な問題だ。だから——「福島大には触らせたくない」。

入試の偏差値から、研究の質が決められていました。

9月1日、福島大学は学長名で声明を出しました。特定の動画にも、人の名前にも触れずに。真摯に取り組む学生・教職員が「尊厳を傷つけられることがあってはならない」と。

同じ日、番組側は「配慮が不足していた」とし、当該の動画は削除されました。

消えたのは、1本です。

大学の名前で人を並べ、それを笑いに変える。その形は、ひとつの動画が消えたくらいでは、なくなりません。

だから、ここからは、消えないものの話をします。

福島で、続いていること

2011年3月。原発事故で放出された放射性物質が、森や川や海の中で、これからどう動いていくのか。何十年という単位で追いかける研究が必要になりました。

2013年7月、福島大学に環境放射能研究所が発足します。

なぜ、福島でなのか。

福島大学の大学院案内に、こんな説明があります。福島の事故は、雨の多い温帯で起きた。乾燥した内陸で起きたチョルノービリの事故とは、放射性物質の動き方が大きく違うことが、これまでの研究で見えてきた、と。

よその記録を持ってきても、そのままでは当てはまらない。

雨の多いこの土地で、何が起きるのか。それは、この土地で、森に入り、川の水を汲み、測りつづけた人のところに積み上がっていきます。

その記録を求めて、人が来ます。

2018年、福島大学のシンポジウムに、ウクライナの環境・天然資源大臣が足を運びました。チョルノービリを抱える国の大臣が、福島まで。

ここで、あの学生さんの一言を、もう一度置いてみます。

「福島ならでは」。

その隣に、あの言葉を、もう一度。

「触らせたくない」。

二つを並べてみたとき、あなたの中で何が見えてくるでしょうか——。

あなたのいる場所で、いま続いているもの

18歳のときについた偏差値は、入口の数字です。

扉の向こうで、誰が、何を続けているのか。これから、どこへ向かおうとしているのか。それは、入口の数字には書かれていません。

いま、あなたがいる場所。大学でも、専門学校でも、職場でも。

そこは、外から、どんな言葉で呼ばれているでしょうか。

その言葉とは別のところで、そこで続いているもの、これから始まろうとしているものは、何でしょう。

先生が書いた論文の題名。隣の教室で続いている実習。同じ建物で、誰かが毎日積み重ねている仕事。

一度、のぞいてみたとしたら——。

そして、扉の向こうには、あなたもいます。

あなたは、そこで何を続け、どこへ向かおうとしているのでしょう——。

みらいを紡ぐ、物語。
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出典

※ この記事で紹介した賞は、各機関の公表資料にもとづく参考情報です。名前を挙げた方も、挙げていない方も、すべての研究者に敬意をもって書いています。


▶ このシリーズの1本目:その大学に行って、何をするんだろう ― 偏差値が高いほど良い、と決めたのは誰?

▶ このシリーズの2本目:「アホです」と言った高須克弥院長と、「能力を表すとは思えません」と言った九州大学・岡﨑晴輝教授 ― 18歳のあの一点に、何が乗っていたか

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